
こんにちは。エンジニアの竹野です。
エンジニア以外の方は、こう思ったことはありませんか? 
「なぜエンジニアは今動いているコードを綺麗にすることに時間を使いたがるのだろう?」
一方、エンジニアのあなたは、こう感じていませんか? 
「このまま新しい機能を追加し続けたら、いつか家が崩壊する…。でも、その危機感がなかなか伝わらない…」
この”すれ違い”は、多くの開発チームで起こる普遍的な課題です。
この記事では、両者の架け橋となるべく、システムの開発を「家づくりとメンテナンス」に例えて、エンジニアが言う「リファクタリング」の重要性とその本当の価値を解説します。
目次
- すべてのプロダクトは、チームで住む「家」である
- なぜ「完璧な家」は最初から作れないのか?
- 「リファクタリング」とは、快適な暮らしを続けるための”手入れ”
- ① 散らかった部屋の片付け(可読性の向上)
- ② 使いにくいキッチンの動線改善(設計の見直し)
- ③ 見えない配管の定期点検(依存関係のアップデート)
- まとめ:「どんな家に住み続けたいか」をチームで話そう
すべてのプロダクトは、チームで住む「家」である
私たちが開発・運営するプロダクトやサービスは、チームメンバーみんなで住む「大きな家」だと考えてみてください。
リリース当初は、ピカピカの新築です。しかし、何年も住み続けるうちに、モノが増えて部屋が散らかったり、家族構成が変わって間取りが使いにくくなったり、目に見えない配管が古びてきたりするのは、ごく自然なことです。
何もしなければ、家は少しずつ住みにくくなっていきます。
なぜ「完璧な家」は最初から作れないのか?
ここで、聡明な非エンジニアの方ならこう思うかもしれません。
「そもそも、なぜ手入れが必要なんだ? 最初から100年住める完璧な家を建てれば、後から掃除や修繕なんて不要なのでは? それがプロの建築家(=エンジニア)の仕事だろう」と。
これは非常に鋭い指摘です。もし私たちが物理的な家を建てるなら、まさにその通りでしょう。
しかし、私たちが作っているプロダクトという「家」は、物理的な家づくりとは決定的に異なる、過酷な前提条件があります。
- 家族構成(=事業環境)が予測不能な速度で変わる
 物理的な家なら「夫婦と子供2人」など、数十年先を見越して設計できます。しかしプロダクトの家は、「明日から突然100万人の親戚が住みに来る(=アクセス急増)」かもしれませんし、「来月から庭でロケットを作り始める(=新規事業の開始)」かもしれません。
- 住民(=ユーザー)が”住みながら”間取り変更を要求してくる
 物理的な家なら、建築中に「やっぱり地下室がほしい」と言われても「もう基礎工事が終わったので無理です」と断れます。 しかしプロダクトの家は、住人がキッチンを使っているまさにその瞬間に「やっぱり壁を取っ払ってリビングと繋げてくれ」という要求が飛んできます。
ソフトウェアは”柔軟”であるがゆえに、こうした無茶な要求にも応えられてしまうのです。
その結果、一時しのぎの延長コードが壁を這い回り、構造を無視した仮設の柱が乱立し、家全体が歪んでいく…。これが「手入れ」が必要になる、本当の理由です。
「リファクタリング」とは、快適な暮らしを続けるための手入れ
エンジニアが「リファクタリングをしたい」と言うのは、「この家を、もっと快適で、安全で、価値のある場所に保つために、”手入れ”をさせてほしい」という提案に他なりません。
その”手入れ”には、大きく分けて3つの種類があります。
① 散らかった部屋の片付け(可読性の向上)
状況: リビングにモノが散乱していて、どこに何があるか分からない。探し物をするのにいつも時間がかかる。 
手入れ: モノを種類ごとに分類し、決まった場所に収納する。
一見、部屋にあるモノ(機能)は変わっていません。しかし、整理整頓された部屋では、必要なものをすぐに見つけられますし、新しい家具(新機能)を置くスペースもすぐに確保できます。これが、コードを分かりやすく整理し、変更を容易にするためのリファクタリングです。
② 使いにくいキッチンの動線改善(設計の見直し)
状況: 冷蔵庫とコンロ、シンクの配置が悪く、料理をするたびに無駄な動きが多い。 
手入れ: 最新のシステムキッチンに入れ替えるなど、動線を考えてレイアウトを大きく変更する。
これも、キッチンの機能(料理ができること)自体は変わりません。しかし、この改善によって、毎日の料理(開発)の効率は劇的に向上します。これが、非効率な構造を根本から見直す、建築的なリファクタリングです。
③ 見えない配管の定期点検(依存関係のアップデート)
状況: 壁の中や床下を通っている水道管が、気づかないうちに錆びてきている。
手入れ: 専門家による点検と、新しい配管への交換を行う。
これは住んでいる人からは見えない部分ですが、最も重要なメンテナンスです。もし放置して水漏れ(セキュリティ事故)や詰まり(パフォーマンス低下)が起これば、家全体に甚大な被害を及ぼします。これが、システムを支える基盤技術(ライブラリ等)を最新で安全な状態に保つためのリファクタリングです。
まとめ:「どんな家に住み続けたいか」をチームで話そう
家の手入れを、「家事が得意な一人(特定のエンジニア)」だけに任せていては、いつか限界がきます。
「新しい家具(新機能)を買うか?」
「部屋の掃除や修繕(リファクタリング)をする必要があるか?」
それは、その家に住む家族全員(チーム全員)で話し合って決めるべきことです。
チーム全員が「私たちは、これからどんな家に住み続けたいのか?」という共通のビジョンを持つこと。
そして、「そのためには、いつ、どの部屋を手入れするべきか?」を定常的に対話すること。
それこそが、プロダクトという「家」の価値を長期的に高め、チーム全員が快適に暮らし続けられる唯一の方法なのです。
 
                         
                         
                         
                     
                     
                     
                     
                     
  
  
  
   
             
     
                                 
                                 
                                